"人は動脈とともに老いる"という言葉がある。動脈硬化は、脳卒中、心臓病、腎不全、動脈瘤など、様々な疾患をもたらして中高年期の主要な死因となる。また、高齢者の生活機能を低下させて、要介護状態に陥らしめる。わが国に多い脳血管性痴呆も、動脈硬化に起因するところが大きい。
21世紀に欧米に先んじて超高齢化を迎えるわが国では、高齢者の健康を維持し、その向上を図ることが、何ものにもまして重要な課題である。それには、加齢にともなう動脈硬化の進行を、極力抑制する必要がある。
動脈硬化は、高血圧、喫煙、高脂血症、糖尿病など様々な危険因子によって促進される。したがってその抑制は、動脈硬化の早期発見と評価ならびに生活習慣の改善によって可能である。欧米においてはこの面における臨床・疫学的研究が盛んで、有用な情報が常に発信されている。一方、わが国ではこの面における研究は著しく立ち遅れており、信頼するに足る長期介入追跡研究に乏しいことが識者によって指摘されてきた。動脈硬化の予防は医療費の削減の面でも、大きく寄与するものである。
動脈硬化に関する研究は多領域にわたるが、当基金は上述の観点から、その分野を予防・臨床疫学に限定して、有用な研究に助成金を交付することとした。特に日本人の特徴を踏まえた動脈硬化の早期診断ならびに集団の長期追跡による危険因子の検出とその制御、生活習慣や薬物による無作為介入調査研究の支援に重点をおく。また、動脈硬化予防に関する国際会議・学会への支援、国民に対する啓蒙活動、その他当基金の目的を達するために必要な事業を行う。